「イブネ・クラシ ササ枯れ調査5年経過報告」
2009年11月23日  担当:あつた勤労者山岳会 

 愛知県勤労者山岳連盟の鈴鹿山系ササ枯れ調査は当初計画の5年が経過した。
「あつた勤労者山岳会」はイブネとクラシを担当して、その間に15回の観察調査を実施した。調査定点で写真撮影・pH測定のための土壌を採取。「あつた労山」としては1m四方に鎖を設置し、その中の本数を観察した。参加した会員は36名延べ98名である。 

 イブネ・クラシには20年以上前に3回訪れたが、背丈を超えるササで潜り込むと怖さを感じたものだ。それが入会後、01年に「地図とコンパスでクラシ・イブネを目指す」目的で銚子ヶ口から縦走した。その時すでにササは枯れ、腰ほどになっていて周囲が見通せた。ササは上部の節が詰まり、そこから一本づつ枝を出し、小さな葉が密集している感じになっていた。(01年6月17日クラシ(越百山)の写真参照)
 その後、鈴鹿山系を歩くたびにササを観察するとササ枯れが進行しているように思えた。図書館に通い、ササについての書物を何冊か目を通した。そんな時05年から県連のササ枯れ調査が始まり、「あつた」のササ枯れ調査担当になった。

 

Ⅰクラシ(越百山ークラシ北西の小ピーク)
 
 
 

Ⅱクラシ定点(No.6)
 
 
 

Ⅲ.クラシ定点の新芽
 
 
 

Ⅳ.クラシ定点位置(越百山から見てブナノキの下)
 
 
 
 

Ⅴ.クラシ・イブネ北端の鞍部
 
 


 Ⅵ.イブネ北端定点(No.7-2)
 
 
 

Ⅶイブネ定点(No.7-1)
 
 

 Ⅸ.ササが枯れて樹も枯れる
 

 笹が枯れ、直接樹の根元に日光が当たるため高温に耐えられないためか、密集したササによる保水力がなくなってか。どちらにしてもクラシ(越百山)や佐目峠・イブネ間の尾根上・イブネでもササがなくなり、樹が根元から倒れている。このような現象が広がりつつあるように思える。丸裸にならなければ良いのだが。ササ枯れの後の植生を見てみると多いのは、ウラボシ科(イワヒメワラビ)やカヤツリグサ科かホモノ科(シバ?)(ササではない)のもの、ヒカゲノカズラ科(ヒカゲノカズラやマンネンスギ?)が多いコケの仲間も出てきている。木本ではアセビの幼樹が生育しているのが目立つ。しかし黒くなった土壌のところも多くここには何も生えそうにない。

 ササ枯れの要因について、鈴鹿山系ササ枯れ調査委員会(委員長吉川幸一氏・現県連自然保護部長)にて各会の報告や専門家・地元の方々の見解をふまえ検討されているところであるが、結論は得られていない。
各会の5年間の経過報告により要因が見いだせればと思うが、単一な要因ではなさそうである。私見では温暖化により積雪量が減少し、雪により保護されていた先の葉が寒風にさらされ、先から枯れが始まったと考えたい。
 また、イブキザサのような北方系のササは根茎が浅いところにあるため、雪の保護がされなくなり、寒風により凍結が根茎にまで及んだものとも考えられる。雪から出ているところをシカが食べたというシカの食害説もある。シカの食べた痕もあるにはあるが、広範囲を全滅させるほど食べたとは思えない。


Ⅹ.定点土壌Ph
 1.クラシ定点No.6
  2005年4月24日 pH3.5.   2009年5月23日 pH3.3
    大きな変動は見られていない。(最高時pH3.8)
 2.イブネ定点No.7
  2005年2月24日 pH3.6   2009年5月23日 pH3.9
    大きな変動は見られていない(最高時pH4.2)

Ⅺ.定点ササの本数
 クラシNo6.(イブネ・イブネ北端は本数観察は不可能になった)
  2005年5月14日  総数31本 新芽5本  
  2006年5月14日  総数54本 新芽5本    葉付43本
  2009年11月15日  総数18本 10cm程度4本(葉付)

 新芽は春に増える傾向にあるが2年ほどで枯れていた。
 2009年11月15日枝葉の付いていたのは10cmほどの4本のみであった。
 枝葉の付いたものは最高時43本あった。

 イブネ・クラシから始まったと思われるササ枯れは、今や御池岳テーブルランド・霊仙山・藤原岳と滋賀県側から広がり、鈴鹿山系全体に及びそうな感じがする。国定公園の特別地域に指定されている御在所山を取り囲んで、国見岳・鎌ヶ岳・雨乞岳周辺では20cm以上の葉で背丈を超えるササが健全に生育している。なぜこの地域に健全なササが残っているのか疑問点もある。
 ササ枯れにより見晴らしは良くなり、迷うことなくどこでも苦なく歩けるようになり、登山者には快適になったかもしれないが喜んでばかりはいられないはずである。行政に働きかける努力を継続していくべきであろう。

 あつた勤労者山岳会  山田敏文