白 山 |
− 紅葉を愛でる − 富田(征) |
深田久弥は白山を、どの百名山より最高な評価をしているのではないかと思います。 そこが久弥の古里であるから、一層その思いが強いのではないでしょうか。 「たしかに白山ほど、威あってしかも優しい姿の山は稀であろう。 仰いで美しいだかりでなく、登っても美しい山である。榛松と高山植物に覆われた山頂には幾つかの旧火山があって、そこには紺青の水が湛えられ、それに配する雪渓や岩の布置が、天然の庭園のような趣である。しかも夏期登山者でにぎわう頂上付近を少し外れると、原始のままの静かな気持ちのいい場所が、ほとんど汚されずに残っている」 田中澄江は花の百名山で白山の代表する花としてミネズオウをとりあげている。何故ミネズオウかの説明はない。あまりに白山は花が多くて一つの花に時間をさく余裕がなかったのでしょう。 白山を評す文章が美しい。 「白山。遠いはるかな白い峰は、匂立つばかりの花の山であった。そして真夏になお雪も豊かであることは、いかにこの山の冬が長くきびしければこそ、この山いっぱいの花花が、それぞれのいのちを強靭に、したたかに咲き誇っていると教えられた」 白水湖からの入山は途中林道が土砂崩れで、越前九頭竜湖をへて一之瀬から別当出会い砂防林道を登山ルートとした。 九頭竜湖の辺りは秋の気配を感じます。道路の左右は芒野になっています。ところどころ萩の花が見えます。あけびの実らしいのが車から見えます。 ・ 朝靄に濡れ散り続く萩の花 ・ あけびの実裂けて人なき九頭竜湖 ・ 北陸路左右に見ゆる色は秋 ・ 九頭竜湖広がり迫る紅葉かな ・ トンネルの向こう紅葉日和かな ・ ちぐはぐな穂芒束ね朝の市 ・ 道の駅新蕎麦の味風匂ふ ・ 茸蕎麦あわてて啜る人ありき 白峰村は真っ白です。それは蕎麦の色です。 ・ 白峰の村一面に蕎麦の花 ・ 白峰や豊作蕎麦の花畳 ・ 咲き満ちる白峰郡(ごうり)蕎麦の花 ・ 穂芒に明る過ぎたる田の光り 一之瀬に車を置きバスで別当出会いまで行きます。バスを待つ間も秋模様を感じさせてくれます。燕は南に行ったことでしょう。秋の蝶が低く舞っています。 ・ むすび食ふ川の芒芒の揺れやすく ・ 好日や眼に入るもののみな紅葉 ・ 白山の裾まで雑木紅葉かな ・ 燕帰りいよいよ空の青さかな ・ 秋の蝶日当たりながら低く舞ふ いよいよ登山人になりました。 ・ 一本の杖と紅葉の山に入る ・ 峪音が大きくなりし萩の花 ・ 芒野にきのうの雨の水溜り ・ 山静か啄木鳥叩くブナ大樹 ・ 樹林帯抜けて日当たる紅葉原 ・ 白山にいよよはなやぐ七かまど ・ 草紅葉避けて野営の場所探す ・ 名月や野菜ばかりの鍋つつく ・ ワンカップ名月浮かべ飲みにけり ・ しばらくは夜風良夜の石に座す ・ 小屋の灯の消えし山影星月夜 ・ さらさらと雲の流るる十三夜 ・ 白山に高々とあり月今宵 ・ 寝袋の中から見ゆる星月夜 4時に起床しました。まだ真っ暗です。早々に食事をして室堂から御前峰に向かいます。あたり一面霧に囲まれます。秋の山は一夜で紅葉が色を増します。春は山笑う。夏は山滴る。秋は山粧ふ。冬は山眠る。と言います。きれいな表現です。まさに秋は粧いを増してきます。ゆっくり時間をかけて下山につきました。 ・ 朝露を踏みて南竜馬場歩く ・ 連山が黒一色なる秋の朝 ・ 竜胆や連山なべて霧上がる ・ 霧晴れて連山峰を明りゅうす ・ 石畳濡らす御前の紅葉冷 ・ 亡き人のケルンを囲む七かまど ・ 一夜にて白山さらに山粧ふ ・ 日当たりて山川響き谷紅葉 ・ 紅葉の気配濃くなる雨二日 (本当は雨は降りませんでした。霧のみです。) 爽やかな気持ちで家路に着きました。 ・ 鈴虫の声の通りし暮色かな ・ 職を辞し今幸せや初秋刀魚 |
以上 |