鳳来寺に於ける ある教師の活動
小豆坂小学校の生徒と共に

記:富田(征)
日:8月7日(土)森作り、8日(日)木作り

 犯罪の低年齢化が社会問題になっている。陰湿な虐めから、幼い子供を殺してしまうケースまである。犯罪とはいわないが登校拒否や家庭内に引きこもり様々の現代の病がある。時にこのような事象を教育の問題、教員の力不足を指摘する場合をよく見かける。NHKは特集で「これでよいのか教育は?」と特集番組を組む事もある。

 この鳳来寺でのある教師の活動は、子供のために身体を張って行動している事実の報告である。



 7月の中旬に、岡崎の小豆坂小学校の先生から「8月7日、8日の鳳来寺の活動に6年3組の生徒32名ほど夏季学習の一環として参加させたいがよろしいでしょうか」と問い合わせがきた。鳳来寺の年間の活動計画で、8月7日は「森作り」、8日は「木作り」が組まれている。これへの参加と、活動の母体である黒谷家に宿泊を企画していた。

 小豆坂小学校は、昨年から鳳来寺の植林・下草刈りや、四谷千枚田の米作りに幾度ともなく参加している。しかし今回のように一クラス全部と黒谷家への宿泊までの企画は初めてである。主催者の一人、鳳来寺のYさんに相談をしてみました。「大歓迎」の回答を頂く。食事作りもYさんの奥さんが指導してくださるとのこと。何時もとかわらぬ暖かい心遣いに頭が下がります。もうこれで成功間違いなしである。

 先生の大変さも並ではありません。学校の行事の一環ならばよいのですが、あくまで一教師の熱意のみでの実施計画。校長の許可を得て、岡崎市の教育委員長の決済を得なくてはなりません。綿密な計画書を必要とします。学校行事でないために、万一事故があった場合、マスコミに叩かれます。学校長はもとより企画した先生の首が飛ぶかもしれません。全ての計画は先生が立てるのですが、実際は父兄が計画を立てたことにして、主催者を父兄にするのですね。先生はあくまで付添い人なんです。当然災害保険に入ります。こんな冒険までしてやらなくてもと思うのですが、生徒に自然と親しむ機会、さらに大人との接触を持たせる機会を作らせようとする先生の熱意なんです。この熱意に鳳来寺の仲間、四谷千枚田の仲間が協力をおしまないのです。

 計画の中味は鳳来寺の活動計画にほぼ添っていますが、7日午後から千枚田に移動して、田の草取りと畦の草刈が追加されました。実は生徒の田圃が3枚あるのです。この田圃は先生と生徒の研究課題で古代米を四種類も植えたのです。今回の千枚田への引率責任者は私が引き受けました。さらに、食事作りです。夜はカレーライスをベースに、朝はサンドイッチです。7日、8日の昼食はもともと鳳来寺の仲間が作る事になっています。夜の楽しみに、「肝だめし」、「花火大会」を企画してあります。この活動には父兄の力なくしては実現しません。生徒の管理と運転手です。6〜7名の父兄が協力してくれるのです。先生と私で3〜4度打ち合わせしたでしょうか。詳細に計画が出来ていくほど自信に変わっていきます。



 「あつた」の仲間の協力要請したのですが、合宿トレーニングや、山行計画があり、小谷さんのみ参加してくださることになりました。鳳来寺の仲間には、伝播しよく存じていて、40名ちかい方が協力してくださりそうです。子供が好きなんですね。鳳来寺自然科学博物館友の会会長のO先生の動物のお話の講演まで企画されました。

 ここまで計画がねられれば当日が待ち遠しくなってきます。幸いに天気予報は両日とも晴天が報じられています。7日、8日がやってきました。大成功であったことは間違いありませんでした。そのことを証明する事実を先に紹介しておきましょう。黒谷家の主、Iさんは大変よく出来たお方で且つ厳しい方なんです。元教師でもあるのです。そのお方が「こんな良い生徒は、黒谷家で初めてです」と言ってくれました。それもそうだと思います。先生から「来た時よりも帰りにきれいにして帰りましょう」の躾が生徒にしてあったのです。庭の草取りから、部屋の大掃除、障子の「さん」の埃まで拭き取るのですから。見違えるほど綺麗になったのですから。

 さて、7日は下草刈を済ませた後、千枚田に移動しました。先生からの注意事項があります。「ここで生活されている方は、田圃で生計をたてている方々ばかりです。生活の場として畦は大切な境界線であります。また家でいえば壁のようなものです。絶対に畦で走らないで下さい。畦を壊したら家を一軒壊したことになります。さらに蝮がいるかもしれません。見つけたら蝮と遊んではいけません。大人に報告してください」子供たちは素直です。分かり易い説明さえすればきちんとルールに従います。よく見ているとルール違反はお互いに注意しあっているのですね。

 いよいよ作業です。今日の作業は、田の草取りと、畦の草取りです。先生が三グループに分けました。それぞれの役割分担を決めました。ここも生徒は素直です。言われた事に忠実です。グループ毎で競争します。真剣なんです。何故なら早く終えたGから川遊びをしてよろしいとご褒美がでたからです。



 今後の教材のためにビデオ撮影を先生が企画していました。私は千枚田保存会の代表の一人としてインタビューを受けます。司会者は生徒です。何度も失敗をして30分もビデオ撮影に費やされました。子供らしい質問を受け、これも楽しかったですね。

 感心したことを一つ報告しておきます。捕らえた沢蟹30匹余りを川へ戻しているのです。「どうして」と聞きましたら。「教室に2匹いればいいから。残りは自然に帰してあげるの」この優しさに、大人が教えられました。

 夜の食事作り。Yさんの奥さんの指導を受けますが、それぞれが、何をすべきか決めさえすればよく働いてくれます。楽しい食事が終り、これから花火大会という時に夕立がきて断念しました。しかし「肝だめし」は、地元の方の鳳来寺にまつわる怖い伝説を、聞きながら二度も参道へ繰り出していました。長篠の合戦があっただけに、悲惨な伝説が多くあるのを始めて知りました。

 8日の木作りは、想像豊かな木工細工作りです。子供の豊かな発想に大人は感心するばかりです。本箱、机、いす、植木鉢、武器、筆立て、ポストカード入れ、宝石箱、短時間に二つも作る子供がいます。しかしこれだけの材料、道具を準備していただいた、鳳来寺の方々には頭が下がります。

 全ての行事が終わったのは、午後4時でした。子供も大人も大満足です。充実した二日間でした。一番満足したのは大人かもしれません。小谷さんと話をしました。「大人が満足しないものは、子供に押し付けてもだめですね」

 こうして、鳳来寺の仲間が増えていくことは楽しい事です。夕方先生から丁重なお礼の訪問を受けました。12月5日(日)の収穫祭と下草刈りに参加してくださることを約しました。