大日ヶ岳 

雪山教育山行(大日ヶ岳)
氏名(HI)
今回、私たちは、山域名両白山地になる大日ヶ岳(1708.8m)を目標にして雪上訓練に臨みました。雪山経験のほぼないメンバー6名(YIさん、Sさん、YSさん、STさん、TTさん、筆者)が、MSさん、SIさん、TYさん、KSさんからご指導あるいは各サポートを受けながら、みんな真剣にこの訓練に臨みました。
天気は、南西の風に乗って、往路、左からの横殴りの小雨が吹き付け、他に登山者を探しても全く見当たらない、正に絶好の訓練日和の中、山行決行となりました。
訓練生の中でも私は雪山が全く初体験であるという意味で、初心者中の初心者で、チームリーダーのMSさんの真後ろを歩むチャンスをいただきました。午前10時にゴンドラ山頂駅を出発。ピッケルのひもの通し方も知らず、まずはそこからご指導いただきました。嶋村さんの足跡を必死で追いかけながら歩き始めましたが、左から吹き付ける雨にメガネは視界を奪われるわ、この日初めて覚えた雪山の歩き方もなかなかうまくゆかないわで、そうした中で、この先、初めてのアイゼン装着が予定されていましたが、それをどんな環境下で行うことになるんだろうか、あるいは、この先に待っている寒さは準備してきた装備で耐えられる限度にあるんだろうか、はたまた、ヘルメットを伝ってくるこの雨にこれからどう対処していけばいいんだろうか、そもそもどこまで歩くんだろうか、雪の中を歩く時の消耗はどの程度のものなんだろうかなど、全くの初体験である私には先の読めないことばかりで、なにひとつ確実なものを心に持てず、不安ばかりが心を占めて、往路の登りはその心との戦いでした。
また、あいにく、ショップで準備したレイヤーセットは酷寒を想定したものだったようで、歩き始めて30分もすると暑くて、いったん1枚脱いだのですが、今度は異常におなかが冷えだしてきたのを感じたので、休憩地点で手袋を外し、シャツの中に手を差し込んでみたところ、なんと、おなかと背中にびっしょり滴るくらいの汗がたまって冷えてきていることが分かりました。アイゼン装着の際に急いでタオルを出して腹にべっとり付いている汗をふき取ったところ、ようやく不快なところがなくなりましたが、汗をふき取ったりするのに手間取り、みんなが行動食をこまめにとったり水分補給しているのを横目に、水分すら補給しないままこれからどれほど進むのか予想もつかない中で体調に変調をきたさないかに不安を募らせながら、出発間際まで振りつける小雨に刃向かいつつ装着訓練に取り組むなど、正に絶好の訓練日和を堪能させていただきながらも、ちょうど正午になんとか大日ヶ岳山頂までたどり着きました。
ここまで、見るべき景色も見えない真っ白な悪天候の中、すれ違ったのは一組のカップルのみで、他に登山者もいないさみしい道のりでしたが、雪道歩行の基本からキックステップ、下りの足運びなどを学びながら、なんとか目的地まで到達できたことで、はじめて行程が見えるようになってきました。行程が見えるように感じられる段階に至るのとその前とでは、心の不安が全く違い、その後の復路はグンと心が明るくなって、真っ白な悪天候の景色もそれはそれで楽しい景色と変わり、雪上に顔を出した熊笹など見ながら陽気なジングルベルの足音を感じられるまでになってきました。水分補給をしたり、行動食として準備してきたハムをかじって雪山での最高のガストロノミーを堪能したりする余裕もできてきました。
レイヤーの加減も今回の山行でひとつ自分の中に物差しができましたし、復路は滑落停止訓練やアイゼントラバースの訓練など、入門レベルでのものではありましたが貴重な経験を積ませていただきました。そして、なによりも今回の収穫は、「雪山初めて」を克服できたことであり、もう次回からは行程が全く見えない不安と闘う必要はありません。もとよりこれからも初めてへの挑戦の繰り返しになるとは思いますが、この絶好の訓練日和のお陰で、「初めて」に臨むときの心のありようをより深く学べたように思います。こうして午後1時半には大満足の状態でゴンドラ山頂駅まで戻ってくることができました。
ところで、帰りのゴンドラの中で雪山歴五十何年の先輩からステキなお話を聞くことができました。

「雪山の中でこそ、現代社会の中では気付きにくくなり、また見失いがちとなった、人類が受け継いできたこの人間の体、その能力というものが、いかにすばらしいものであるかが感じられる。」、「それが極限の世界の魅力。」
「そして、酷寒の中で感じる、雪が締まり、アイゼンが効く時の、キュッ、キュッという音の気持ちよさ。」

憧れの中で、今回一番の初心者であった私にも、雪山の魅力がポッと灯り始めたように感じました。
正に今日は、絶好の訓練日和でした。

大日ヶ岳

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