“ツリーウオッチング” ヨチヨチ歩き(9)
…カスミ網発見

私は毎月、猿投山定例自然観察会に参加し、折々の自然を楽しんでいる。その状況については、いつかこの欄で紹介したいと思っていたが、今日は「かすみ網」と言うトンでもない現場を見たので、そのことを中心に報告します。

ここの観察会は、朝8時には観察を始める。いつも早出のバードウォッチングの達人・Eさんが姿を見せず、皆で心配しながら猿投川沿いの車道を歩き始めた。1時間ほど歩いた所で、Eさんが車で追いついてきた。

数日前に、Eさんは密猟を監視している日本野鳥の会の仲間と、猿投山の人が入らないような広沢川と加納川の間にある尾根のピークに、たくさんのカスミ網などが持ち上げられているのを発見した。網はしばらくの間、張ったりはずしたりされていることが多いらしい。

そして快晴の今朝はやくEさんの数人の仲間が山に登り、招鳥用のテープでツグミやシロハラの鳴声が流されているのを確認して、下で待機していたEさんに無線で密猟の連絡をした。Eさんは直ちに県警の110番に通報し、出動を依頼した。

現場の手前の踏み跡の中に隠されていたワイヤーに足が引っかかり警報ブザーが鳴り、警官の到着に時間がかかったことなどで、残念ながら密猟者は取り逃がした。登り口と反対の加納川の方に踏み跡がつうじていたらしい。網にはシロハラ、カケスなど4羽の鳥がかかっており、うち3羽はすでに死んでいた。

シロハラ カケス
(画像は 「Re Born To Be Wild!」 のものです)

警察官の指示で、張られた網、3台のテープレコーダ、拡声器、警報装置などは現場にそのままの状態で残置されることになった。網は高さ3m、100m近い長さで、3列に張られていた。竹などのたくさんの支柱は、目立たぬように薄黒く塗られていた。網数としては、中規模のものらしい。

ここの網はツグミ類用の目の粗いものらしい。12月初旬までの数ヶ月間、北の国から福井、東浪、藤岡とはるばる渡ってきたツグミやシロハラの群が、山の高い所で一休みしようとし、仲間の鳴声を聞き安心して舞い降りると、一瞬に数十羽、数百羽が一網打尽になることもある。こういう仕掛けらしい。ツグミ類は猛禽のエサになることも多いらしい。その上人間の餌にまでされては、立つ瀬がないだろう。需要が多いから、大型密猟が絶えないと言う。

こんな出来事があり、Eさんの参加が遅くなっていたのだ。Eさんは網が放置されているので、また鳥が網にかかっていないかを心配して、観察会の帰り道に現場確認への同行者を募った。

観察グループは、冬鳥の鳴声を探したり、アサギマラダの幼虫が食草キジョランの葉裏に付着している様子を観察したり、シロモジやダンコウバイの黄葉を観賞したり、白山や御岳の展望を楽しみながら東の宮、山頂、赤猿峠を経由する大回りコースで、広沢川沿いの林道へと進んだ。天然記念物指定の菊石の近くにある公衆トイレの前で、いつものように小休憩に入った。(午後2時少し前)

Eさんはここからカスミ網現場へ行く希望者を再度募った。リーダーは現場確認と定例観察続行グループに分けようとしたが、かなり険しい山歩きを承知で、全員が前者を希望した。ここからが、カスミ網現場の私の体験記である。

休憩地から菊石方向に少し進み、広沢川を渡渉し、山腹を木の枝などをかき分けながら登り始める。踏み跡は薄いがわりにしっかりした感じがするのは、今回いろんな人が通ったためだろうか?尾根に出ると地形が複雑に入り組んでいて、下山は気を緩めるとルートをはずしそうだ。

ツグミ ルリタビキ

先頭のEさんグループは鳥が心配なのか、早いピッチで登り続ける。私は第2グループで、先頭の残置物の説明などの伝言を次のグループにつたえながら、20〜30分くらい歩いてピークの網が張ってある現場にやっと着いた。Eさんは網にかかっていたルリビタキの足の糸を、ハサミで一本一本でいねいに解きほぐしていた。じっとおとなしく握られていた鳥は、手のひらが開かれるとたちまち紺碧の空の中に舞上がっていった。終わりのグループは、この様子は見られなかった。

網はどこまでも続いており、網の中を歩く先の人の姿が小さく見えた。カスミ網の密猟がこんなにも大規模に組織的に行われているなんて、とても信じられなかった。強い憤りを覚えると共に、野鳥が好きなゆえに命がけで密猟防止に取り組むEさんの仲間たちの努力には限りない敬愛の念を感じた。

Eさんの仲間たちは、別掲新聞スクラップのように、藤岡町の山林でも密猟現場を発見し、警察に連絡している。皆さんも山行中に、もしカスミ網を発見されましたら、直ちに「県警110番」へ通報し、密猟防止に協力してあげてください。地元の警察に直接連絡すると、対応が遅くなることがあるようです。

広沢川沿いで、一昨年はアトリやマヒワの数百羽の大群にときどき出会ったが、昨年はサッパリだった。今年の冬はどうだろうか。

Eさんは大きな探鳥会では先頭を歩いているが、ここでは猿投山が好きな一般参加者として、私と連続参加回数を競っている。バードウォッチングの初心者にいろいろ気遣いをして下さるが、私は鳥の見分けが一向にできない。悲しい。

4時10分駐車場にもどり、鳥あわせを終えると、もう夕暮れだ。

「カスミ網密猟現場」へ

(2004.11.13 森の散歩人)